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MEBUKI IP Small Talk 9月号(2025年)

目次

 分割出願の留意点と裏技(弁理士会のセミナーからの知見)

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分割出願の留意点と裏技(弁理士会のセミナーからの知見)
                         代表パートナー・弁理士 長谷川洋

 いつも海外の知財について紹介しているが、今月は、先日受けた弁理士会のセミナーから得た日本特許に関する知見を紹介する。具体的には、日本の特許出願から一部の発明を分割出願する際若しくは分割出願した後の留意点と裏技について紹介したい。特に、裏技に関しては、筆者も知らなかったことなので少し詳細に述べる。

1.特許出願における分割出願とは
 日本特許出願の分割出願(以後、単に「分割出願」)とは、二以上の発明を包含する特許出願から、その一部の発明を新たに一又は二以上の特許出願を行うことをいう(特許法第44条)。
 分割出願を行う目的は、出願人により異なる。例えば、特許出願(親出願)につき既に審査を受けたがもう一度仕切り直して請求項を作り直してから再度審査を受けたい場合、特許査定を受けた特許出願(親出願)から分割してさらに広い権利が欲しいと思う場合、権利範囲の異なる多くの特許権を得たいと考える場合がある、講師は、特許権侵害訴訟の経験者である。講師曰く、分割出願の実務的最も有益な目的の一つは、競合他社の製品に合わせて請求項を作り直した1または2以上の分割出願を行い、その後これを権利化することにより、競合他社へのけん制、さらには権利行使を有利に進めることだという。

2.分割出願の留意点
(1)留意点1:出願当初明細書・請求の範囲・図面の記載範囲内では分割できないことがある。
 現在の特許法では、分割出願の時期として3種類を規定している。その1は、特許出願(親出願)について補正可能な時期である。その2は、親出願について最初の拒絶査定を受けた後3か月以内である。その3は、親出願について特許査定を受けた後30日以内(ただし、親出願が特許登録後には分割不可)である。
 ここで、上記3種類の内、その2とその3の場合には、親出願の出願当初の記載範囲内という制約以外に、分割直前の記載範囲内という制約があることに留意すべきである。親出願が出願当初の明細書又は図面から一部を削除して拒絶査定又は特許査定になった場合には、出願当初の広い記載範囲内で分割出願できない。これを防止するには、特許請求の範囲は親出願の審査中に変化するのはよいとしても、明細書および図面だけは出願当初のものから一切削除せずに維持しておくのが好ましい。これによって、親出願の出願当初明細書・図面が直前明細書・図面となる。このため、上記その2またはその3の分割出願でも、親出願の出願当初の明細書・図面の範囲内で分割できる。
(2)留意点2:拒絶査定を受けた後の分割出願のチャンスは原則1回である
 上記のその2の「3カ月間」は、分割出願を決めるラストチャンスと考えた方が良い。もちろん、拒絶査定に対する不服審判を請求後に審判の審理に入り、そこで拒絶理由通知が発行された場合には、その1でいう補正期間内での補正が可能である。
 しかし、拒絶理由通知が発行されずに拒絶審決、または特許査定若しくは特許審決を受けることも多い。では、特許査定若しくは審決後に分割出願できるかといえば、答えはノーである(特許法第44条第1項第2号かっこ書き)。将来の分割出願不可を想定したうえで、拒絶査定後に分割すべきか否かを検討すべきである。

3.裏技
 裏技については、セミナーからの知見であることを最初に念を押しておく。
 最初の特許出願(親出願)から分割した第二世代の子出願、さらに子出願から分割した第三世代の孫出願、さらに孫出願から分割した第四世代のひ孫出願というように、三世代以上にわたって分割出願を繰り返す場合もある。特に、特許権侵害訴訟の場合には、敢えて、多くの世代の特許権を用意して戦うことがある。
 下位世代の出願がそのすぐ上位世代の出願の範囲内で行われるなら、問題は生じない。しかし、競合他社の製品を権利範囲内に入れたいために、多少の文言を追加して請求項をつくって分割出願せざるを得ないこともある。そのような場合に問題が生じる。
 例えば、親出願から分割出願(子出願)をし、さらに子出願から分割出願(孫出願)を行ったとする。親出願および子出願は特許登録に至り、孫出願は審査係属中である状況を想定する。子出願のクレーム1に記載された特許発明は、実のところ、親出願の記載範囲を超えた構成要件を含んでいるものとする。ただし、孫出願は、子出願の記載範囲内であり、かつ親出願の記載範囲内で行われたものとする。すなわち、子出願が親出願の記載範囲外の構成要件を含んでしまい、分割要件に違反したわけである。
 子出願が分割要件に違反すると、子出願は親出願の出願日に出願したものとされず、現実の出願日に出願されたものとみなされてしまう。通常、子出願の出願時には、親出願は公開されているので、子出願は、公開済みの親出願の記載からみて新規性を欠くものとして生存できなくなる。そうなると、孫出願も生存できなくなる。特許権侵害訴訟となると、被疑侵害者が子出願の分割要件違反に気づいてそれを主張した場合、権利者は、子出願の特許権および孫出願を失い、親出願の特許権のみで戦わざるを得なくなる。
 ここで、裏技があるという。子出願の特許権に対して訂正審判を行い、全請求項を削除するという手法がある、とのこと。
 全請求項を削除すると、子出願の特許権はどうなるか?
 親出願の記載範囲外であった請求項がなくなるから、分割要件違反というペナルティがなくなる。ただし、子出願の特許権は請求項無しの状態になるから存在できない。一方、親出願から子出願への分割行為については無かったことにはならないし、かつ分割要件違反もない。この結果、孫出願は、ペナルティのない子出願から分割したものとみなされる。親出願または子出願がまだ特許登録されていないのであれば、孫出願が存続できなくても、親出願または子出願からさらなる別出願を分割できるからよいが、上記のように親出願も子出願も特許登録されていると、もはや、そこから新たな分割出願はできない。そのような場合、子出願の特許権を、いわゆる自殺させることで、孫出願を守るというという裏技があるという。

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